映画 「さらば箱舟」   〜 寺山修司監督の遺作 〜   =キネマ旬報ベストテン第5位=  

【スタッフ・キャスト・ストーリー・記録・感想】 【アダを探せ!

【スタッフ】
脚本:寺山修司・岸田理生、
製作:砂岡不二夫・佐々木史郎・九條今日子、
企画:多賀祥介、 映像:鈴木達夫、 録音:木村勝英、
美術:池谷仙克、 音楽:J・A・シーザー、 編集:山地早智子、
照明:海野義雄、 劇団ひまわり+人力飛行機舎+ATG作品


【キャスト】
山崎努(時任捨吉:分家)、 小川真由美(時任スエ:分家)、
原田芳雄(時任大作:本家の長男)、 石橋蓮司(時任米太郎:分家・スエの兄)、
高橋洋子(テマリ:本家の女中・大作の愛人)、 蘭妖子(時任ハナ:本家・大作の妹)、
新高けい子(ツバナ:息子ダイが本家の跡取りと主張し棲みつく)、
若松武(ダイ:ツバナの息子)、 根本豊(林:本家の書生)、
天本英世(鋳掛屋:時計や写真機を持ち込む)、 高橋ひとみ(チグサ:森に棲む妖精)、
三上博史(下男アダ:本家の使用人)


【ストーリー】  ※ 思いっきりネタバレです ※ (長い部分は伏字にしていますので、ご覧下さる方はドラッグして反転させてください)

本家の長男大作は幼い頃、本家の柱時計以外の村中の時計を海岸に埋めた。 それ以来、時間は本家だけのものになった。 人々は、時を知りたくなると本家を訪れた。 時が過ぎ、大作は成人する。

大作のいとこの捨吉とスエは愛し合い、タブーを犯していとこ同士の結婚をした。 いとこ同士が結婚すると、犬の顔をし、足は毛で覆われた子供が生まれると言う。 スエの父親はスエに貞操帯をつける。 スエは、これを取り外そうと懸命になる。 捨吉も不本意なうわさを立てられ苦しむ。 夫妻は本家の人間や村人たちから罵られ、なかば村八分とされてしまう。

不思議な少女、チグサ。 枕の下に黄色い花を敷いて寝て、夢で彼女の裸を見れば呪い(貞操帯)が解けるという。 彼女は夢の中でしか裸にならない。 夢以外で裸を見ると、おかしな命の落とし方をするという。 夫妻は黄色い花を敷いて寝るが夢にチグサは出てこない。 大作や村人から受けるいじめのあまりのむごさに、とうとう捨吉は大作を刺し殺してしまう。(以下、伏字です)

捨吉とスエは村から逃げる。 歩いて歩いて歩き続け、疲れきって辿り着いた家は、夜が明けてみると、前いた家だった。 なにも変わらない、また戻ってしまった。 捨吉には死んだ大作の姿が見えるようになり、ふたりは会話を交わすようになる。
この村には、現世と冥土を繋ぐ大きな穴がある。 手紙を欲しがる死人が多いため郵便配達人が手紙を届け、双方の世界を繋いでいる。

捨吉は物忘れが激しくなり、日用品の名前や、それを何に使うものかも分からなくなってゆく。 すべてを忘れた時のことを恐れ、記憶のあるうちに、と、ひとつひとつに名前を書いた紙を張ってゆく。 からかう大作に 「おまえは、自分が死んだことを忘れているんだ」と捨吉。 「(紙に書いても)そのうち文字を忘れる時が来るぞ」と大作。

ある日、時計を売りに来た商人から夫妻は柱時計を買う。 この村では本家にしかない柱時計。 それが夫妻の家にも来た。 喜びもつかの間、混乱が起こることを恐れた村人の襲撃を受け、捨吉は殺されてしまう。 しばらくしてスエの貞操帯がとれる。 村に近代化の波が押し寄せる。 村人は次々村を捨て、隣町へと流れてゆく。 スエは、美しく化粧し花嫁衣裳を着、冥土に繋がる穴に身を投げる。 「人間は中途半端な死体として生まれてきて、一生かかって完全な死体になる」 「百年たてばその意味分かる! 百年たったら帰っておいで!」

百年後、赤ちゃんをあやすスエと傍で楽しげに働く捨吉夫妻の姿があった。 街中を走って写真機が来たことを知らせるアダの声に村の人々が反応する。 それぞれの暮らしをしている懐かしい人々が高台に集まる。 「鳩が出ますよ〜」 鋳掛屋のかけ声で撮った写真は、今の服装から色彩が落ちるにしたがって懐かしい百年前の服装へ変化していった。



【記録】
1982年作成 127 分 沖縄ロケ
1983年5月 寺山修司氏 死去
1984年9月8日 公開(配給:ATG)
2001年10月 DVD発売
・シナリオ本: 「さらば箱舟」寺山修司/新書館(1984年出版)
 ※お写真がたくさん載っています:三上さんも少しだけ(寺山さん、もう少し手を・・・涙)
・ビデオ・DVD: あり
・ガルシア・マルケス『百年の孤独』が下敷き


【感想】 寺山監督作品を沢山拝見しているわけではないのですが、見せていただくたびに、「色と光の遣いかたが大好き!!」と思います。 画面全体が地味な色合いの時に、一点だけ綺麗な色を持ってきてたり。 画面の構図とか、シーザーさんの音楽も、もちろん大好き。 エロティックなシーンも多く、どきどきしますが、全然いやらしくなくて、「これを芸術って言うんだな〜」と初めて観たとき(「ローラ」と「審判」)感動したのを覚えています。

漂う空気に活気があって、押し付けがなくて、どこからか いたずらっ子が顔を出しているようで、楽しげで。 ”ねばならない(こうあらねばならない、この場合はこうせねばならない等々)”って垣根がないように思うのです。 だから、とっても楽。 ”全部が正解だよ”って、一人一人の感性を大切にしてくれる気がします。

ストーリーは、いつも分かったような、分からないような。(^^ゞ
でも、凛とした気品があって、色んな垣根が取り払われていることと、映像が本当に綺麗で、「いいもの見せていただいたな〜」といつも思います。

この「さらば箱舟」では、捨吉とスエが村から出て行くところの映像が大好きです。 真っ暗な中での光のあて方がとても綺麗でした。 厚みがあって、特に山羊を後ろから写しているシーンが好きでした。 チグサちゃんと根本青年・アダのシーンは、全体が綺麗な緑色で幻想的な空気が漂っていて綺麗でした。 高橋ひとみさんも三上さんも、可愛いっ。 三上さんはこの頃受験生で、撮影を抜けて東京へ受験に行ったりされていたそうです(当時の記事より)。 大変でしたよね。

どのシーンも役者さんたち みなさん、独特のにおいと色気があって、すばらしく綺麗でかっこいいです。 薄っぺらじゃないのです。

アダは大人しくてナイーブで、ほんとにほんとに可愛らしいのですが、、、ダイが(笑)。
「落ち着け、落ち着くんだ、ダイ〜!」と。 本家の長男たるもの、子孫を残さねばならないとは言っても(え?そういう理由じゃない?・汗)、、、ですね。(^^ゞ  いや〜、しかし、女性をくどく時のダイ、とってもかわいらしくて色っぽいです。 あの嬉しそうな表情、、こっちまで嬉しくなります(え?)。 「草迷宮」で三上さん演じる明の青年時代を演じておられますが、その時はこれほどまでに やんちゃじゃなかったのに。(違う役だから当たり前・汗)

色っぽいと言えば、もちろん、山崎さん・原田さん・小川さん・石橋さん・新高さん。 とっても色っぽかったです。 私は山崎さんの寡黙な男前ぶりにキャーキャー言ってましたが(浮気もの:三上さんは別格ということで・汗)、”レンジ”こと石橋さんも外せません。 この頃から半ケツで、ノリは既に ”ジョージア”でした(・・自分で書いてても意味不明・呆。おまけに毎回半ケツしてるみたいな書き方・謝)。 あんなに足が長いなんて、知りませんでした。 白いスーツも似合ってて日本人離れしたかっこよさがありました。

小川さんは、素晴らしかったです。 キリッとしてて綺麗で、可愛くてやさしくて温かくて。 そして最後は力強くて。 ほんとに上手だな〜〜と惚れ惚れ見てました。

ものすごく個性豊かな役者さんたちの中で、”おもいっきり可愛らしいチーム”は、高橋ひとみさんと三上さん。 お2人とも人間を飛び越してました(妖精のようでした)。 チグサちゃんがアダを見る時は、いつも嬉しそうだったから、きっとチグサちゃんもアダのこと、気に入ってたんですよね。 アダがおぼれた後でチグサちゃんが「また、、、死んだ」って言った後、一瞬寂しそうだったので、私としては嬉しかったです。 すぐに立ち直るところも、チグサちゃんらしくて良いですが。

大作からテマリへ宛てた手紙、好きです。  「元気で死んでいるから心配するな」と。

アダからチグサちゃんに送った手紙が、とても可愛らしかったです。  「こっちへ来てから、チグサさんの好きなあの歌を口笛で吹けるようになりました。 聞かせたいので、チグサさんも早く死んでください。」

寺山さんって、人を見る目が優しくて、温かい人だったんだろうな〜〜と、想像しています。 全部の作品をいつか見せていただこうと思っています〜。 ・・・作品の感想じゃなくなっちゃった。(^^ゞ


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